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<リニューアル版>

●小型で高利得、広帯域、低雑音・・・

マグネチックループアンテナの試作

「JARL自作品コンテスト」優秀賞第一位・作品 

 JL1BOH 池羽克幸 JA1BU 小野英男(SK)

■はじめに

送受信機と空間との間の電波エネルギーの受け渡しをする道具がアンテナです。この受け渡しの能率を良くしようとするとアンテナは大きくなってしまいます。28MHz帯でモービル運用を楽しんで来た私達のアンテナも次第に大型化して、JL1BOHは4WD車のフロントバンパーに巨大なポールを立てて突っ走って「犀」(サイ)のアダ名を付けられ、JA1BUはスポーティセダンには不釣り合いなトップロードの尻尾を付けてまさしく「タヌキ」になってしまいました。
 

寸法的にカーモービルアンテナの限界まで行ってしまった私達が、次のタイプとして取り上げたのがマグネチックループアンテナです。そして、JL1BOHが製作したアンテナは実用品レベルに達してFBな運用成績を挙げることができ、「JARL自作品コンテスト」優秀賞第一位に選ばれました。この概要をご参考までに発表します。

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■マグネチックループアンテナとは 

電磁波には必ず電界と磁界とが相伴い、その間は E=120π の関係で結ばれています。(Eは電界で単位はV/m、Hは磁界で単位はA/mです)。ですから電界か磁界かどちらかを発生するモノがあればアンテナになります。通常のアンテナは半波長ダイポールなどによって空間に電界を発生させてそれを伝搬させる電界型のものです。これに対してコイルに電流を流して空間に磁界を発生させ、これに伴う電界を伝搬させるのが磁界型のアンテナです。
 

コイルに電流をたくさん流すと発生する磁界は増します。そして電流が一定の時はコイルをたくさん巻くと磁界が増すはずですが、巻線が長くなるので巻線に定在波が乗って電流が減ってしまいますし、半波長を越えると逆向きに電流が流れる部分までできてしまいます。ですから磁界型のアンテナの最適な形状は線の長さが(1/3~1/8)波長くらいで巻数1回のループとなります。
 

このループを直径で示すと(1/10~1/25)波長くらいですから、我々が親しんでいる (1/2)波長ダブレットに比べると非常に小さなものです。そこで「マイクロループアンテナ」「ショートループアンテナ」「コンパクトマグネチックループアンテナ」「微小ループアンテナ」などと呼ばれています。磁界型アンテナですから大電流を流すことが必要で、そのためにコンデンサを挿入してコイルと直列共振させて積極的に大電流を流すのが特徴です(図1)。
 

形が似ているループ状アンテナでも、「キュービカルクワッド」や「デルタループ」はエレメントに定在波を乗せて使いますし(図2)、方向探知装置に使われるループアンテナは同調させないので、いずれも動作原理が違います。そこで、本稿で報告するアンテナは動作原理を尊重して「マグネチックループアンテナ」と呼ぶことにします。

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図1 マグネチックループアンテナの構造

図2 キュービカルクワッドと2エレアンテナの類似

■原理から見たマグネチックループアンテナ

大きいアンテナほど、空間との間で電波エネルギーを受け渡しする実効面積が大きいので、性能が良いということは容易に理解できます。確かにパラボラアンテナを見るとそう思います。しかしポータブルラジオのフェライトバーアンテナは1万分の1波長くらいの小ささで良く電波をキャッチしますし、電波時計も波長7.5kmの電波を数cmのアンテナで受けています。
 
この秘密は「同調(共振)」にあります。磁石に磁力線が集中するようすを鉄粉を使って観察する実験をやったり写真で見た人は多いと思いますが、これと同様に電気力線は同調した電気回路に集中します。小さなアンテナでも同調させると大きなアンテナと同じ様に動作するのです。短いダイポールアンテナの実効面積はと計算され、同様に小さいループアンテナの実効面積は 計算されます。(文献1、2) λは波長です。なお両アンテナの指向性と偏波方向(電界の方向)を簡単に示しておきます(図3)。

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図3 ダイポールアンテナとマグネチックループアンテナの比較

ここで注意したいことは、これらの式がアンテナ素子の寸法に無関係なことで、大きなアンテナも小さなアンテナも性能が同じということは何かおかしな気がします。そこで「アンテナの効率=放射抵抗/(放射抵抗+損失抵抗)」という式を思い出してみましょう。放射抵抗はアンテナから放射されるエネルギーを抵抗損失で表現したものですから大きい方が良く、これに対して損失抵抗はエネルギーを熱にしてしまうのですからこれは小さい方が良いのです。
 
そこでダイポールアンテナについて考えてみますと、アンテナを短かくすると放射抵抗が減ると共に容量性リアクタンスが増えます。容量性リアクタンス自体は損失にはなりませんが、アンテナを同調させるために誘導性リアクタンス(ローディングコイル)を入れるとコイル巻線の抵抗損失が加わります。巻線の抵抗は余り減らすことができませんので、結局アンテナの効率が悪くなってしまいます。
 
これに対してループアンテナは、寸法を小さくすると放射抵抗が減ると共に負の誘導性リアクタンスが増えます。しかし同調させるために容量性リアクタンス(具体的にはコンデンサ)を入れても、コンデンサの抵抗損失は少なく誘電体損失も材料を選ぶと小さくできるのでアンテナ効率は余り低下しません。これがマグネチックループアンテナの利点なのです。

■アンテナの設計と製作

さてJL1BOH局の実例を示します。このアンテナは大電流を流すので抵抗損失を減らすために電気抵抗を特に小さくしなければなりません。そこで抵抗がアルミの0.6倍の銅を材料に使い、太くするためにパイプにすることにしました。太いうえに比重がアルミの3.3倍なので当然重くなります。
 
JL1BOHの車は通称「ランクル70」で普通の乗用車よりは遙かに頑丈とはいえ、屋根に直接載せるのは無理ですからルーフキャリアを付けて載せることにしました。ルーフキャリアの幅は1.6mありますが、マグネチックループアンテナに性能上許される最大直径である(1/10)波長は28MHz帯では1mですし、走行中の機械的ストレスを考えて外側に支持枠が必要なので、ループの直径は80cmに抑えました。
 
文献2にマグネチックループアンテナの諸元を計算する設計プログラム(言語はBASIC)が載っていたので移植し、ついでにフィート・インチをメートルに直しました。これにより計算したJL1BOHのアンテナの設計値を表1に示します。材料や部品の入手や加工にはいろいろと工夫しました。

表1 マグネチックループアンテナの設計値

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まず、ループエレメントには直径2.5cmの空調機用の銅パイプを使いました。円形に曲げるにはランクル70の大きなタイヤが丁度良い治具として使えました。2本のパイプを並列に半田付けしましたので実機の損失抵抗は表1の値よりも少ないはずです。バリコンとの接続のためにパイプの端に厚さ0.3mm、幅3cmの燐青銅ベルトを付けました。
 

パイプにはあらかじめハンダ上げして置き、ベルトをパイプクランプで締め付けながらガスバーナーであぶってベルトとパイプとの隙間が無いようにハンダ付けして接触抵抗を少しでも下げるようにしました(写真1)。また、パイプは錆びて抵抗が増すことの無いようにピカピカに磨いてからアンテナコーティング材を重ね塗りしました。

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写真1 コンデンサの挿入部分の工作

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写真2 2.5~100pFのバキュームコンデンサ

バリコンは耐圧が数kV以上あって、大電流が流れても損失が少なくて、車載で使える耐候性と耐機械環境性が優れているものが必要です。このアンテナを作る時に最も入手に苦労する部品です。JL1BOHは以前入手して置いたジャンクの5~100pFのバキュームコンデンサを使用しました(写真2)。
 
バキュームコンデンサでなく羽根型バリコンを使う時は、普通のタイプはローターの接触抵抗が効率を落とすのでバタフライ型かスプリットステータ型を使いたいところです。  バリコンの電極とメインループの燐青銅ベルトとをしっかりとネジ留めしました。このバリコン周辺部分は丈夫で軽くて水が入らないことが必要なので、プラスチックの箱に収め透明アクリル板で蓋をして隙間をシリコンのコーキング材で固めました。バリコンの取付け台はポリプロピレンのまな板を切って作りました。なお、バリコン回転用の直径6mmのグラスファイバー棒が箱の底に突き出ています。(図4、写真3)

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図4 バキュームコンデンサのクローズアップ

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写真3 バキュームコンデンサの取り付け部分

このアンテナはインピーダンスが極めて低いので通常のLC型マッチング回路では大きなインダクタンスが必要となりコイルでの損失が増加してしまいます。そこで給電ループを使ってトランス結合でマッチングをとりました。給電ループは同軸ケーブルRG-8Uで作りました。直径は文献ではメインループの約6分の1が適当とのことですが、長さが1cmずつ違うものを数個作って実験的に決め、外径16.5cmが最適でした。なお、ケーブル外皮はファラデーシールドになりメインループとの静電的結合を防いでいます。(図5、写真4)

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図5 給電部の様子

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写真4 製作した給電部ループ

このアンテナは帯域が非常に狭く同一バンド内でもQSYするとチューニングを取り直さなければなりませんので、メインループの基部にモーターを付け、リモート制御で図4に示したバリコンにつながるグラスファイバー棒を回して同調をとります。

また、アンテナパターンがシャープな8の字なので、相手局がヌル点に入るのを避けたり或いは混信やノイズ源をヌル点に追い込んだりするために、アンテナ全体を回す機構も必要です。そこで、アンテナ部分全体を直径13mm、肉厚2mmのグラスファイバーのマストに装着し、それをもう一つのモーターで回すことにしました。その概念を図6に、またドライブ機構部を写真5に示します。

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写真5 ドライブ機構部

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図6 チューニングを取るための工夫

写真で基台の下のモーターがアンテナ回転用で中央に立っている直径13mmのアンテナマストを回します。右上のモーターが同調用で直径6mmのグラスファイバー棒でバリコンを回します。モーターは24VのDCモーターで、ギアダウンしてあってもまだ回転が速すぎるので電源電圧9Vで使っています。それでもバリコン同調用モーターは速すぎるので抵抗を入れて5Vくらいに落としています。

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写真6  マグネチックループアンテナ

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図7 取り付けの様子

アンテナマストはループ2個とバリコンの箱と同調用モーターが付いて重くなり、走行すると風圧もかかるので、かなりの荷重を受けることになります。そこで、マストには8mmのグラスファイバー棒を通し周囲には13mmのグラスファイバー棒の四本柱を建てて補強し、柱の基部はアルミのパイプで覆っています。このようにがっちりと作ったお蔭で時速100kmでも平気です。概念を図7と写真6に示します。

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写真7 コントローラーの内部

アンテナ系のコントローラーは運転席にリグと並べてあります(写真7)。機能は電源を両モーターのどちらかに入れることと、極性を切替えるだけの簡単なものです。
 

電源は9Vの乾電池「006p」1個で済ませていますが3ヶ月程度使えます。操作はすべてマニュアルで、バリコンの同調はVSWRメーターを見ながら、アンテナの向きはフロントバンパーに付けたアンテナ監視用バックミラーで見ながら行います。

■アンテナの調整

このアンテナの調整作業は給電ループの寸法を変えてマッチングをとることだけです。メインループの周囲環境と取り付け状態はなるべく本番と同じようにします。 まず中間サイズの給電ループを取り付け、受信機をつなぎ受信周波数を運用したい周波数に合わせ、バリコンを注意深く回して受信雑音が最大になる点を探します。次に小電力で送信し、VSWRが最小になるようにバリコンを微調し、VSWRをメモして置きます。
 

次にビニールテープで給電ループを直径方向に引っ張って少し楕円形にしてみます。その時VSWRが下がるよようならば給電ループを小さいものに変えます。VSWRが上がるようならば給電ループを大きいものに変えます。このようなテストを各バンドで行って総合的に最も良い給電ループを選びました。 最後に、防水と緩み止めのために給電点やモーター周辺をコーキング材で塗り固めました。 モービルアンテナではこの作業がとても重要です。

■アンテナの特性
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図8 VSWR特性

低抵抗で大電流が流れるこのアンテナは大変にQが高いので帯域幅が狭く、実際にVSWRが1.5以内の帯域幅は、18MHz帯で±約10kHz、21MHz帯で±約15kHz、24MHz帯で±約25kHz、28MHz帯で±約30kHzです。
 

従って少し周波数を動かすと同調を取り直す必要がありますが、同調をとれば非常に広帯域で18MHz帯から28MHz帯までがVSWRR1.3以内に収まります(図8)。免許の関係で14MHzのデータはありませんがもちろんカバーしますし、VSWRは1.4を越えることは無いと推定されます。
 

メインループは太い方が絶対にFBで、直径を10mmから25mmに増すと受信信号がS3上がり、8の字特性のヌルの切れが良くなります(JL1BOH)。計算では0.5~1.5dBの差ですから、Sがそれほど違うのは他に要因があるのかも知れません(JA1BU)。  

給電ループを若干小判型にした方が8の字のサイドの切れが良くなります。また、メインループを正確に左右対称にしないと8の字特性が崩れます。フィーダーをメインループから垂直に下げないとメインループと結合してパターンが崩れます。

■アンテナの性能

このアンテナはDXに良く飛びます。最近の外国局とのQSO結果を表2に示します。今夏は余りDXコンディションが良くありませんでしたが、28MHz SSBでハワイとモービル局同士のQSOができました。18MHz帯と28MHz帯で、多くの局を相手に4分の1波長ホイップアンテナと付け替えて比較実験をしました。大きな違いはありませんが、総体的にはこのループアンテナの方が良いレポートを得ました。

表2 QSOした外国のプリフィックス(注:1998年当時)

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実際問題としてHFで4分の1波長のモービルホイップアンテナは長すぎて、フルサイズを付けて走行することは技術的にも法令的にも困難ですからループアンテナのメリットは明らかでしょう。また近距離Esのような打上げ角が高い時にも対応できるのは大きなメリットです(図3のループを立ててみて下さい)。
 
このアンテナの最大の特長は耳が良いことです。8の字特性のヌル点に混信や雑音を追い込むととても聴き易くなります。また、同調がシャープなために強力な混信波から生じる混変調や感度抑圧を除けるのでSN比が大変に良くなります。先日FR5の局とQSOした際もJA各局よりも当局の耳の方が良いことを確認しました(以上JL1BOH)。

このアンテナは低仰角まで良く放射しているよようです。28MHz帯SSBで横浜市港北区のJL1BOH局から東京都日野市の当局にRS58で届き、一般固定局からの信号の平均レベル56を遙かに上回っています。横浜市のランドマークタワー下からRS56で届いたのにも驚きました。地理的に難しい所でその付近の固定局とQSOしたことがありません。また、甲府からは5エレメント八木アンテナを持つ局と同程度に入感しました。そのほか方々を走り回っているJL1BOH局を28MHz帯で追いかけてみて、平均して通常の固定局よりもかえっていのではないかと感じています(JA1BU)。
 

■終わりに

マグネチックループアンテナは表3に示すような特徴を持ち、総合的に見て実用価値の高いアンテナです。従来も受信アンテナとしてのメリットは謳われていましたが送信用としてもっと利用できそうです。私達はカーモービル用に開発しましたが、日本の様な住宅環境ではアパマン用のアンテナとしても活用できるでしょう。  

表3 マグネチックループアンテナの特徴

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本稿は発表記事であって製作記事ではありませんので、自作を志される方の参考には不十分でありましょうし、部品・材料の入手に問題がありましょう。私達は今後、入手容易な部品・材料で作れるものを開発したいと思っています。完成した際には発表します。以上

参考文献

1) JE1UNE 小暮裕明、コンパクト・マグネティック・ループアンテナの理論と実際、
   HAM Journal、 No.93, 1994                      
2) I1ARZ R.Graighero、(訳)JA1AFT 平崎宏、HFバンド送信用ショート・ループ・アンテナ、
   HAM Journal, No.98、 1995  
 
【編注】 この記事は「モービルハム」誌1998年12月号p.63~68に掲載された記事をもとに再編集されたものです。

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最終形となりましたマグネチックループアンテナの仕様を紹介します。 ループの太さ100φ、直径80cm、骨組みにエアコンの高圧用の6mm銅パイプを銀ロウで接合し、それに0.3mmりん青銅を巻いてあります。

チューニングは、写真の上の部分の、バキュームコンデンサーをトルクモーターで回して同調を取ります。

電源線はループの中を通してあります。回り込み対策、シールドも兼ねて指向性があるので、ローテーターを付けてあります。 この状態で走行していましたが、一度も事故を起したことはありません。

このマグネチックアンテナは同調を取るコンデンサーに、アンテナの良し悪しが隠れてます。そこさえ押さえれば、最高のアンテナが、出来ると思います。重たいし高価ですが、バキュームコンデンサーに勝るものは無いと思います。

運用周波数は18MHz、 21MHz、 24 MHz、28MHz、 29 MHzの各バンドです。電波はよく飛んでくれました。自分でも驚くほど雑音が少なく、相手局から「了解度が良い」とレポートをもらい気を良くしています。 ほとんどのエンティティと交信できましたし、QSLカードも未だに来ます。

LU7EP  CX6AAK  DJ3HJ  SP8BLY  OH6LNI  W6VIB  F8AAB  G4RCG  IK1MNJ  PT7AZ  OZ1HPS  SM3NRY  AA5TB などです。
最終形のマグネチックループアンテナの写真をご覧ください。 
de JL1LOH

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